ビーム物理学について
“ビーム”という言葉を聞くと、加速器中を高速で運動している荷電粒子群を思い浮かべる人がほとんどではないかと思います。しかしながら、我々は単に加速器の設計研究だけを行っているわけでは決してなく、プラズマや光の基本的性質にも興味を持っています。実際、加速器中のビームを重心系で眺めると、それは実験室系で静止した非中性プラズマに近い挙動を示すことがわかります。また、加速器が生み出す放射光やレーザーは、汎用性の高いフォトンビームです。「ビームとは空間的に局所化された同一粒子(イオン、電子、フォトン、反粒子など)の集合である」と定義することが可能です。我々の研究室では、このような広い観点からビームの研究を行っており、加速器は勿論のこと、非中性プラズマや荷電粒子トラップ、光と物質の相互作用なども研究対象としています。
ビーム物理学の歴史はまだ浅く、国内では、1990年代に入ってから急速に伸びてきた新しい学問領域です。この分野が成長してきた背景には、加速器に代表される粒子ビーム生成・照射装置の進歩があります。「一種類の粒子から構成されている(不純物が混在していない)こと」や「人間に対して特定のスピードで走っている(任意の対象と相互作用させることができる)こと」などの理由から、ビームは非常に広い応用範囲をもちます。現在では、基礎物理学、放射線医療、工学、材料物性、生命科学、エネルギー科学など、多くの分野において、実に様々な種類のビームが欠くことのできない“道具”となっています。荷電粒子多体系やレーザー、加速器などの基礎研究自体が学問的に面白いことは言うまでもありません。一方で、これらアカデミックな研究の成果は“道具としてのビーム”の性能向上に端的につながり、他の様々な分野の発展に大きく貢献することになるのです。基礎研究と実用が常に直結しているという点は、ビーム物理という学問がもつ著しい特徴と言えるでしょう。