ナノ・イオンビームの生成

イオン1個を操作する!

 ビームの応用範囲は広大で、様々な用途に合わせて様々な性質のビームが役立てられています。ある種の応用では、ビームの強度よりも、空間的広がりやエネルギー幅の大小がとくに重視されます。いわゆる“マイクロビーム”は極端に細く絞られた低電流ビームの一例で、バイオ・生命科学や材料開発などの目的に利用できます。この点に注目して、我々は非常に特殊なイオンビームの生成実験を計画しているところです。具体的には、小型の線形プラズマトラップを用います。トラップ中に特定のイオン群を閉じ込め、それをレーザーで極低温まで冷却すると、ドップラー限界に達したプラズマはクーロン結晶化します。我々の理論によれば、クーロン結晶のエミッタンスは量子的な揺らぎを無視する範囲でゼロです;つまり、トラップをイオン源として用いることにより、きわめて質の高いイオンビームを生成できる可能性があります。クーロン結晶を使う以上、強度の大きなビームの生成はおそらく無理ですが、ビームのエネルギー幅は非常に小さく抑えることができます。また、到達可能なエミッタンスから考えて、ビームの空間的広がりはミクロンオーダー以下になるはずです。
 レーザー冷却によりトラップ軸上にイオンを等間隔で並べる(1次元のひも状クーロン結晶をつくる)ことが可能で、これをうまく引き出せれば、エミッタンスの劣化を最小限に抑えたまま後続の高周波加速器で運動エネルギーを増大させることができると考えられます。一個一個のイオンの間隔は可変です。原理的に、たった1個のイオンを所定のエネルギーまで加速し、所定のターゲットにほぼピンポイントで命中させることも可能でしょう。


図1.ナノ・ビーム生成装置の概念図

 イオントラップでつくったクーロン結晶を引き出した後、高電圧を使って前段加速し、後続の高周波加速器に入射する。1次元のひも状結晶を加速する場合、個々のイオンを高周波バケツ(RF bucket)の安定固定点に乗せる。これ により、ビーム加熱を最小限に抑えることが原理的に可能である。
LinkIcon